野口はいつもイライラしている。
関西に「イラチ」という言葉があって、たとえばうどんを食べる時、ゆっくり食べればいいのにズルズルッとやって「熱いっ熱いっ。」と騒いでいる人などを「イラチ」と呼んでいる。
野口はまちがいなく武蔵小山撞球隊NO.1のイラチである。
常々わたしは、チョークの塗り方にその選手の性格があらわれると思っている。
一球ごとに丁寧に塗る几帳面型、シャカシャカ塗る短気型、まさに十人十色だが、野口くらい短気になるとチョークを塗らない。
また撞く時も3回以上シゴかない。
試合になると少しはマシだが、一人で練習する時などは台の周囲を走りまわっている。時折聞こえる「カシャッ」はキューミスの音である。
それはもはや「運動会」と呼ぶべきであろう。
彼は寝ている時も頭を掻きむしったり布団を蹴ったり、イライラしているにちがいない。
彼がいつも疲れた表情なのはそのためである。
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