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アスリート列伝鈴木望編2

ここまで書いてきて、遅ればせながらお断りしておきたい。
わたしは誰彼なしにつかまえては取材をしているが、かれ
らに共通しているのは、失敗談はよく話してくれるのだが、苦しかった話や自慢話になると途端に口が重くなるのだ。
杉山直樹にしても、高校時代一日20キロ走らされた話のときも「けっこう走りましたよ。」とカラカラ笑っている。「しんどかった。」とは絶対にいわないのだ。
鈴木望には特にこの傾向がつよい。
高校、大学の練習はきつかったか、と聞いても「そうでもなかったです。」
小学生のときにソフトボールを65メートル投げた、というので驚いていると、「えっ? そんなにすごいですか?」きょとんとしている。
こういう調子なのだ。
まったくこれほど取材しにくい男も珍しいが、どうか皆様にはかれのいう「普通です。」は全然普通ではないということをご理解の上おつきあいいただきたい。


 

昭和58年4月、望は星稜高校に入学している。
東京生まれのかれがどうしてはるばる石川県の学校を選んだのか。
「ずっと親元を離れたことがなかったからです。はやく自立したかった。そういうのに憧れていました。」
野球さえできればどこでもよかったのだ。
そのためかれは、星稜高校野球部に入部したものの、わずか数年前の甲子園の歴史に残る星稜高と箕島高の延長18回の激闘すら知らなかった。
なんとものん気なものだ。

 

山下智茂監督率いる星稜高校野球部は名門中の名門である。
中途半端な気持ちで入部したところで、あっという間にはじき飛ばされてしまうだろう。
入部したときの気持ちや印象を聞いてみると、
「2級先輩の安江主将が、ものすごく迫力があって、やくざみたいで怖かった。」

 

星稜高の練習は雪との戦いといっても過言ではない。
11月から3月頃までは、積雪のためグラウンドが使えないのでランニング中心の練習になるのだが、雪の降る日は外にも出られないので4階建ての校舎のなかを走り回るしかない。
それが終わると、室内練習場に移動してティーバッティングがはじまる。というよりも、練習場が狭いのでティーバッティング以外できないのだ。
晴れた日は卯辰山(うだつやま)までのランニングだ。
標高141メートルの卯辰山を越えて向こう側の麓まで走り、そこから引き返してくるのが本来のコースなのだが、かれらは卯辰山の頂上に着くと金沢の町並みや遠く日本海や白山連峰を眺めたりして時間をつぶし、適当なところで頃合いを見計らって学校まで帰ってくるのだ。
学校の近くになると全員全力疾走。
顔には雪を塗りたくる。汗をかいたように見せるためだ。
芸が細かいというか、演劇部顔負けだ。
「いかにサボるかが勝負でした。」

 

まことに申し訳ないのだが、鈴木望の口からはこんな話しか出てこない。タメにならない話ばかりだ。「ご理解ください」とか「申し訳ない」とか、わたしは謝ってばかりいる。
そういえば、ちょっとだけタメになりそうな話がある。
かれは子供のころからプロ選手になるまで常に身近にライバルを求め、そのライバルに追いつくことを目標にしたという。
小、中学のときは兄の洋、星稜では一番打者の堺、駒澤時代は野村謙二郎(のちに広島カープ)、読売巨人軍では前田隆(三菱自動車水島〜巨人)。
「レギュラーになりたい」というような漠然とした目標ではなく、周囲の選手の肩や足を見て、その中から一人を選んで目標にしたのだ。わかりやすさ、という意味ではこういう目標の決め方はいいかも知れない。

 

 

星稜野球部の名物「27アウト」を紹介したい。
これは一見すると普通のシートノックなのだが、普通とちがうのは27個連続でアウトをとらなければいけないことだ。
途中でだれかがエラーすると最初からやりなおしになるので、20アウトを過ぎるころからかなり緊張するらしい。25アウトあたりでエラーをしようものなら全員から恨まれるので「自分のところに飛んでくるな。」と一瞬思ったりするそうだ。
考えてみると、これは実戦と同じ状態ではないか。
試合の緊張のなかで普段通りのプレーをすることはなかなかできないものだが、この練習は「プレッシャー対策」には効果的だと思う。
もっと正確に書くと、じつはこれに「球廻し」が加わる。
たとえば、ノッカーがサードゴロを打ったとしよう。三塁手はゴロを捕って一塁に送球する。一塁手が捕る。普通はこれでワンアウトだが、続きがあるのだ。一塁手は捕った球を捕手に投げる。そのあと三塁手、遊撃手、二塁手、一塁手と順に球を廻し、最後に投手に戻ってきてやっとワンアウト。途中で「ポロリ」をやってしまうともちろん振出しにもどる。
ただしヒットはノーカウントだそうだ。

 

望が2年の時、星稜高校は春夏連続で甲子園に出場している。
「甲子園出場が決まると、じつに喜んだものです。出場できること自体もちろんうれしいのですが、甲子園にいる間は練習から開放されるからです。甲子園の予選は張り切りました。」
最高のサボり方といえよう。

 

(つづく)

 

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