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アスリート列伝 (杉山直樹編4)

 

話が前後するが沼津学園野球部の練習風景についてもうすこし書いてみたい。
2月の寒い時期、部員30名ほどで青森山田高校まで遠征したときのことだ。
なぜか鈍行列車である。走行中の列車内で川口監督の「つま先」の号令がかかると次の駅まで全員がつま先立ちをしたという。これが延々続いた。
さらにつづきがある。
到着してみるとグラウンドには雪が積もっていた。その中をなんと青森山田高校の選手たちは裸足で走り始めたのだ。沼津学園側もこれにはびっくりした。ここで川口監督の大号令がかかった。
「相手が裸足だったら、こっちはパンツ一丁で行け!」
雪のなかを一方は裸足、もう一方はスライディングパンツ一枚で走りつづけたのだ。選手たちは「やけくそ」に近い心境だっただろう。
「気持ちだけは負けるな。」
これこそが川口野球の真骨頂だったと思われる。
「なぜ鈍行列車で行ったのか?」と杉山に質問したところ
「それが川口啓太です。」という答えだった。

 


精神野球の側面ばかりを取り上げてきたようだが、一風変わった練習も紹介しよう。
ボールを使わないノック。たとえばノッカーが「サードゴロゲッツー」と言って打つ(打ったつもり)。三塁手はその打球を捕ってすばやく二塁に投げる。二塁手はその送球を受けて一塁に投げる。一塁手が捕る。外野手もカバーに走る。一連のプレーを想像でこなすのだ。「イメージノック」とでも呼ぶべきだろうか。
メンタルトレーニングとしては、線香が一本燃えつきるまでじっと見つづけたりした。

 

プロ野球での話にもすこしだけ触れておきたい。
入団後はじめての打撃練習の時のことだ。投げるのは二軍の投手である。
どういうわけか、打てども打てども打球がバッティングゲージの外に出なかったという。持参したバットは次から次へと折られる。手はしびれる。これにはあせったという。
普通、打者は投手の腕の振りにあわせてタイミングをとるが、高校生とプロでは同じ腕の振りであっても投げ込まれてくる球の「伸び」がまるで違うため、差し込まれて「どん詰まり」になっていたのだ。
このタイミングのズレを修正するのは案外むずかしい。
まずミートポイントを前に置いてみた。「どん詰まり」はなくなったが、今度は「泳がされる」ので打球が弱いうえにこれでは変化球に対応できない。再度ミートポイントを元にもどし、今度は芝生と土の切れ目あたりに目印を決めて、投手の腕がその目印の点を通過すると同時にバットの始動を開始する、ということもやってみた。
なんだかんだと試行錯誤を繰り返したようだ。

 

もうひとつ驚いたことがある。
打撃練習をつづけていると、ボールの汚れがバットに付着するが、一軍選手のバットを見ると「芯」付近に汚れが集中していたのだ。
入団1年目に杉山は一軍のブルペン捕手を経験しているが、練習後の荷物運びのときバットの汚れ方が皆同じであることに気付き、バットを手にとってしばらく見つめたという。
「これが一軍のバットなのだ、と感心したのをおぼえています。」

 

参考までにもうひとつ。
かれはキャッチボールの時よくラグビーボールを使うがこれはプロ入団後に始めた。
腕の振りがおかしいとラグビーボールはちゃんと飛ばないそうで、球の回転が納得できなければかれはすぐにラグビーボールを持ち出してくる。またその方が肩の仕上がりもはやいという。

 

最後になったが、少年時代から高校時代までを振り返って何が杉山直樹という選手を育てたのか考えてみた。
まず「環境に恵まれた」。
家族の協力もさることながら町内のスポーツ経験者が積極的に指導者役をはたしている。そのおかげで幼少のころから数種目を経験することができた。なんといってもこれは大きかったと思われる。
次に「たくさん食べた」。
これはアスリートの基本だろうか。とくにキャベツの効能について調べる必要があるかもしれない。
そしてそれらの蓄積された要素が高校時代の「地獄の猛練習」によって開花したと考えるべきだろう。
最後に、あたりまえの話だが「野球をやめなかった」ことだ。
「NPO日本スポーツトレーナー協会」では、アスリートを育てる条件として3点を強調している。
●努力
●環境
●指導者
このあたりを本人に聞いてみた。
「少年期の何が有効だったのかわたしにはわかりません。しかしわたしにとって一番大きかったのは川口監督との出会いです。それにつきると思います。生涯の恩師です。」
この原稿を書くにあたり杉山と何度か会う機会があったのだが、あるときかれの携帯電話が鳴った。川口監督からだった。かれは椅子から立ちあがり、電話が終わるまでずっと直立不動の姿勢を崩さなかった。
わたしは笑うしかない

 


(おわり)

 

 

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