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盤外戦術


 

平成10年8月8日。
将棋の世界で「怪童」とよばれた村山聖(さとし)が死んだ。
その生涯については大崎善生著「聖の青春」に余すことなく書かれているが、かれは幼少時にネフローゼを患い、病院のベッドで生活しながら将棋を覚え、将棋の世界の最高峰であるA級に在籍したまま29才で他界した。終生夢にまで見た「名人」まであと一歩のところだった。
その追悼集会のおり、村山の師匠森信雄のところにひとりの棋士が歩み寄ってきたという。

「森先生にどうしても謝っておきたいことがあるんです。」
「何ですか。」
「じつは村山君との対戦のときに、煙草をぱかぱか吸ったんです。普段は吸わないんですけど。」
「何で。」
「いや、まともにやったのではとても勝てないので、それで盤外戦術のつもりで吸いまくったんです。」
「結果は。」
「わたしが負けました。」
「そこまで一生懸命戦ってくれたのなら村山君もうれしかったでしょう。そんなこと気にせんといてください。」

 

入退院を繰り返す村山に容赦なく煙草の煙を浴びせたこの棋士に対し「非人道的」というのは当らない。
プロ棋士である以上、目標は「勝つこと」である。そのためには将棋の駒以外のあらゆるものを駆使して戦っているのだ。
それが「プロ」ということだ。
事実、森信雄もそのことを当然と受け止めていたので「気にせんといてください。」と言ったにちがいないし、村山自身にしたところで「煙草は遠慮してくれませんか。」などと言うはずもない。
「勝負」を「総力戦」と考えるのであれば、こんなのはあたりまえのことなのだ。

 




 

どんな種目においても盤外戦術はあります。

 

NBA(アメリカのプロバスケット)の試合をご覧になられた方は多いと思います。
フリースローの時、選手の正面の観客席では白い棒のようなものがパタパタ振られている。これは応援しているのではなく、目をチラチラさせてフリースローを外させようとする観客による妨害行為なのです。
これは相手チームが故意におこなっているわけではなく観客による自主的妨害行為ですが、これなども立派な盤外戦術であります。

 

いくらでもありますよ。

 

かつてボクシングの世界では、冬場の韓国での試合は忌避されておりました。
冬場の韓国はなんといっても寒い。日本選手の控え室には小さいストーブがひとつだけ。
寒くてガタガタ震えているところに突然試合開始になるわけです。
リング上は打って変わって30度を越す猛暑。
日本選手は大汗をかいてたちまち体力を消耗し、10ラウンドまで立っている選手はいませんでした。
ホームタウンデシジョンどころか試合会場までが「日本選手消耗作戦」に加担しているひどい話ですが、これを克服できないことには所詮勝てない。

 

読売巨人軍の新人選手杉山直樹はバッターボックスに立っていた。
相手投手は広島の左腕エース川口。捕手は「野球界のペテン師」達川。
ホームベース付近では、さっそく激しい盤外戦術が火花を散らしていた。
「おい杉山。まっすぐ(直球)を投げさすけん打ってみいや。」
「ありがとうございます。」
が、第1球目はカーブだった。
「ありゃりゃ。おかしいのぉ。次はまっすぐじゃ。ウソはつかん。」
「ありがとうございます。」
第2球目もカーブ。
「三度目の正直じゃ。次はまっすぐじゃ。祝儀祝儀。」
「ありがとうございます。」
第3球目はまっすぐだった。
来たっ!!
狙い通りのまっすぐ!!
スイングに入る杉山。
だがその球は、確かにまっすぐだったが顔の上を通るほどのクソボールだった。
杉山直樹あえなく三振。

 

1994年の日本プロゴルフ選手権最終日。
トップを走る合田洋は、1打差で2位につける大先輩の尾崎将司にクラブハウスで朝の挨拶をします。
「おはようございます。今日はよろしくお願いします。」
ところが尾崎は返事をするどころか合田の方を見ようともしない。無視です。
しかも尾崎は、前日に合田について聞かれて「女の子みたいなゴルフだな。」とコメントしておりました。このことは当然耳に入っている。
結局合田は1打差を守りぬいて優勝するのですが、おそるべきプレッシャーを背負っていたにちがいない。
これなどは、尾崎がロクに挨拶もできない男というのではなく、朝クラブハウスで顔をあわせた時点ですでに勝負ははじまっているということなのです。

 

広島市民球場での阪神・広島戦。
前日宿舎入りした阪神のエース江夏豊は夜中にたたき起こされます。
宿舎の外では広島ファンが焚火を囲んで大騒ぎしていたのです。
「こらー江夏。出てこい!」
「おどりゃー出て来んかったら火ぃつけるどー!」
宿舎の電話は一晩中鳴りっ放し。外ではバケツをたたいて大騒ぎ。
とても寝れたものではない。
無茶苦茶であります。
これほどわかりやすい盤外戦術もありませんが、江夏氏は今でも述懐されます。
「市民球場に行くのはイヤだった。」
わたしが広島県人というだけで一瞬表情が曇りましたので、相当つらいことがあったのでしょう。
これが張本勲氏あたりになると役者がちがいます。
かれはあまりにもひどいヤジを飛ばすおっさんに対し、バスの窓を開けて右フックをお見舞いしたのであります。
あっ、これはオフレコでした。どうも年をとると口が軽くなっていけませんね。





 

さてビリヤードです。
「ビリヤードにおける盤外戦術」について書く前に、そもそもいつからビリヤードは「紳士のスポーツ」になったのか。それが問題です。
本当に「紳士のスポーツ」なのであれば「盤外戦術」は控えねばなりますまい。

 

わたしの知人に某県の県会議員がおります。
以前、かれは武蔵小山撞球隊に所属しておりました。しかも「所帯バクチ派」でした。
今年のはじめ頃、かれから電話がかかってきたのです。
「じつは県会議員に立候補することになりました。」
「ほー。うちのサークルから議員さんが誕生するとはすごい。がんばれよ。」
「そこでお願いがあるんです。武蔵小山撞球隊のHPからぼくの部分を削除してもらえないでしょうか。」

事情を聞いてみるとこういうことでした。
かれの選挙区では、今でもビリヤードは「ゴロツキの遊び」なのだそうだ。ビリヤードをやっているというだけで落選する可能性すらある。
ある日、何気なくパソコンに自分の名前を入力して検索したところ「武蔵小山撞球隊」が出てきた。しかもプレイヤー紹介には「バクチ好き」とある。
えらい事だ。
選挙区の人にこんなのがバレたら落選まちがいなし。おーまいがー!

かれは立派なA級選手ですが、現在でもビリヤードに行くときは選挙区から遠く離れた県外まで出かけているのですからご苦労なことです。


 

どこが「紳士のスポーツ」じゃ!

 

 

わたしがビリヤードを始めたころは「不良の遊び」だったのが、 30年経ってみるといつの間にやら「紳士のスポーツ」になっている。
キツネにつままれたというか、石川ゴエモンがある日突然「正義の味方月光仮面」になったようなものです。
「ビリヤードは紳士のスポーツなのだから礼儀が一番です。」
こういう話の好きな方はどの店に行っても一人おられますが、礼儀を学びたければ「お茶」や「花」を習ったほうがよろしい。

 

フィリピンあたりではビリヤードは博打であります。
勝てば金持ち、負ければ路上生活。
そういう連中に挑んで勝てるはずもない。
スポーツマンシップに則り品行方正に負けるのみであります。

 

 

あっ、そうそう。
「盤外戦術」でしたね。
かつてはいろんな手段があってその駆け引きも楽しみのひとつだったのですが、以上書いてきたような事情で最近はローカルルールが多くほとんど何もできません。
以前わたしは、相手がトイレに行った隙にタップに「ニベア」を塗ってやったことがありますが、今そんなことをしたら「永久追放」でしょう。

 

ここまで書いてきた以上、ひとつくらい「盤外戦術」を明かさねばなりますまい。
じつはわたしの32年の球歴で磨きあげた「とっておき」があります。
それは法の網をかいくぐるあざやかな手段です。
あまり教えたくないのですが、愛読くださる読者諸兄にだけこっそり必殺技を伝授いたしましょう。

 

 

相手が撞く瞬間(このタイミングは熟練を要します)、必殺技は炸裂します。

 

それは、

 

相手が構えに入る。シゴく。バックスイングに入る。
ここです。
今こそ撞こうとしたその瞬間・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『プッ』

 

 

 

 

屁をかますのです。

 


 
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