大平洋戦争当時、若者は赤い紙きれ一枚で軍に召集され戦地に旅立った。
これを人々は「赤紙(臨時召集令状)」と呼んだ。いやおうなしの絶対命令である。
現在、武蔵小山撞球隊では「ペチャンコブラザーズ」が一大勢力を形成している。
嫁さんにイジメられシイタゲられた男たちが慰め合う会だが、その中に現会長谷やんを蹴落として次期会長の座をねらう者がいる。
斉藤健一郎(けんちゃん)である。
「ペチャンコブラザーズ会長」の肩書きが何らかの利権獲得につながるとは思えないが、なにがなんでも「会長」と呼ばれたい。
なるほど彼は家に帰れば多くの肩書きに恵まれている。
洗濯の会会長
掃除の会会長
妻の肩を揉む会会長
だが彼は考える。
「家の中で会長と呼ばれても仕方がない。オレも男だ。世間のヤツらに会長と呼ばせてみせるぞ。」
会長職さがしが始まった。
PTA会長・・・子供がいない。
町内会会長・・・ぜんぜんムリ。
あぁ
そんなある日、彼に人生の転機が訪れた。
「ペチャンコブラザーズ会長」
これだ!
けんちゃんは歓喜の美酒に酔いしれた。
だが次期ペチャンコブラザーズ会長選挙のための運動に走りまわる彼を、妻の「帰れコール」が容赦なく襲う。
「臨時召集ヲ令セタル依テ本日午後八時マデニ自宅ニ到着スベシ」
赤紙である。
けんちゃんは自宅を称して「大本営」と呼んでいる。
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