台の話でもしようかと思います。
かつて、といっても20数年前のことですが、その頃一世を風靡したのが「スーパーガリオン」という台でした。
ほとんどの店はこの「スーパーガリオン」を置いていたでしょうな。
この台の特徴はというと、まあ全体的にポケットが甘いのですが、それはポケットの寸法だけの問題ではなくなんといってもクッションが柔らかいのかじつによく拾ってくれる。クッション際の球などは手前に半ポイントくらいズレても拾ってくれたりするので、この台で撞く時は手前から攻めるのが常道でした。
手前から狙う撞き方は「ガリオン撞き」と呼ばれて、まあ邪道には違いないのでしょうがこの台の攻略法だったわけです。
本来の狙い方、というのもおかしい話ですが、ビリヤードはひたすらポケットの中央を狙うのが基本であります。
ところが 「ガリオン撞き」の場合は最初にポケットの少し手前のクッションに合わせ、そこから微調整を加えて撞く。微調整というのは例えばちょっとした厚みの調整であったり、少しヒネってスローでごまかしてみたり、まあこのあたりはいろんな手法があったのですが、そういう狙いをする方はけっこうおられました。
後にブランズウィックが登場した時、大弱りしたのは当然です。
ただ、「ガリオン世代」のわたしの場合は今でもこの狙い方を採用しております。
「手前から合わせていく」ということです。
「ガリオン撞き」
最初の狙いはここから。その後、微調整を加えます。
ビリヤードはじつにデリケートな競技で、ちょっとした台のコンディションなどによって天国と地獄の差を生むことがあります。
速い台と遅い台。ポケットの大きさ、形状も違う。クッションも違う。天候にも左右される。
しかしながら一つの台を囲んで双方同じ条件で戦う以上、どんな状況であってもなんとか対処しなければなりませんし、それをできるのが「強い選手」といえるでしょう。
ここで求められるのが「全天候型ビリヤード」であります。
かつて大阪京橋界隈の球屋には、強い選手が必ず一人はいました。
時期的なズレはありますが、「ケンコー」には長谷川プロと大坂晴夫、「京阪」の中島啓二(故人)、「天佑」の横田武(現JPBA)、「みやこ」の小杉純一(海外に逃亡)、「三角」(みすみ)には大江明(現JPBA)、「プールステーション」には高橋邦彦(現JPBA)。
江戸時代の剣術道場に用心棒がいたようなもので、よほど腕に自信がなければおいそれと道場破りなどには行けませんでしたが、そんな中で1軒だけ不思議な球屋がありました。
その店は用心棒を雇わず、天下無双のクソおやじが一人いるだけだったのです。しかもこのクソおやじ、大して強くもない。
ところがどうしたわけか、外来の客にひとりで応戦し8割くらいは勝っていたのです。
その秘密は台にありました。
なんとその店の花台のポケットの大きさは「1.5」だったのです。1.5なんてのは、これはもはやビリヤードの台と呼ぶべきシロモノではなく、クッション際の球をひとつ入れるたびに歓声が起きたものです。
しかも念には念を入れて、ラシャは3C用でした。
道場破りたちは首をかしげている間にゲームセットだったのです。
クソおやじの戦略を一言で申し上げますと、つまり道場破りたちが「ポケットビリヤード」だったのに対し、クソおやじのは「スヌーカー」だったのであります。
レストは全てオープンレストの上に、マスワリも取り切りもできるはずがないので狙ったフリをしてセーフティーばかりしておりました。
「ヘドロビリヤード」と呼ばれるわたしの目から見ても、それはまさに「吐き気を催すビリヤード」でした。
まあそれでも勝ちは勝ちですがね。
わたしがここで問題にしたいのは、「1.5」で練習している選手と「2.0」で練習している選手とでは「1.5」の方が2/1.5倍強くなるのか、ということであります。
わたしは断言しますが、それは絶対にまちがっている。
現に、クソおやじとわたしの対戦では「1.5」の台ではいい勝負でしたが、「2.0」の台ではハンデを出してもほとんどゲームになりませんでした。
理由は簡単なことで、クソおやじはひたすら入れるだけで芸も技もなかったからです。
「1.5」の台で「穴フリ」は不可能ですし、弾かせたりすると先球はほぼ絶望的。いつもそういう台で撞いているので「穴フリ」もできなければ弾かせる球もできない。トラブルを解消する技術もない。
つまりトラブルを1箇所つくっておけば、それで勝ちでした。
もっと具体的に言いますと、「へなちょこブレイク」をしてトラブルを残しておくだけでよかったのです。
わたしの理論上申し上げますと、毎日同じ渋い台だけで練習しても
よく入れるB級
しか育ちません。
じゃあ「2.0」の方がいいのか?
これも間違っている。
ポケットが「入れてナンボ」のゲームである以上「入れ」を磨かねばどうしようもない。
要は「いろんな台で撞く」こと。これが肝要なのであります。
実際、試合に出場しますと初めての台で撞くのですから、適応能力が問われる。
「全天候型ビリヤード」を目指さないことには、試合で成績を残すことはできますまい。
最近ちょくちょく耳にする会話があります。
「わたしのホームの花台、1.8ですのよ♪」
「あーら奥様。わたしんところは1.6ざます。ほほほほー♪」
・・・・・
「よく入れるB級」をめざしてがんばって下さいませ♪
ただし、これはアマチュアの話です。
プロは違いますよ。
「1.6」の台でもヒネったり弾かせたりできるのがプロというものです。
「台が渋くなればなるほどその偉大さがわかる。」と言われるのがエフレン・レイズなのであります。
なんとか小杉純一に一矢報おうと考えたわたしは、奇策に打って出ました。
言葉巧みに「1.5」の台に引きずり込んだのです。
わたしはその台にある程度慣れていましたが小杉は初めて。まさに千載一遇のチャンスであります。
わたしの計略はまんまと的中しました。
ゲーム序盤、小杉は簡単な球をバコバコしたのです。
ふっふっふ。
もらったぜ♪
わたしはにんまり笑いました。
が、
小杉もにんまり笑っていたのです。
「これくらいの方がおもしろいですよね♪」
小杉にっこりボクがっくり
そのときの小杉の3連続マスワリは永久に破られることはありません。
なぜなら、その後この店は閉店したからです。
ひとつだけ聞いてくださいませ。
お願いです。ひとつだけです。
この店には30名ほどの常連客がいた他に、高名な選手やORCの5、6段あたりもちょくちょくやって来ましたが、「1.5」の台では飛ばしまくっておりました。
一日に一回もマスワリが出ない日もけっこうあったものです。
その中でただ一人、2連続マスワリをやってのけた男がいたのです(上記の小杉は別です)。
それがわたしです。
これを訴えたくてここまで長々と書いてきたわけです。
ご静聴ありがとうございました♪
あー、すっきりした♪
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