ワンポケットというゲームが日本に上陸したのはいつだったのだろう。
1990年ころ、少なくともわたしはこのゲームを知らなかった。
このゲームは全部で6つある穴のなかのたった1つだけが自分の穴で、そこに入れなければいけない。
他の穴に入れても無効で、難易度はひじょうに高い。
今回の球はワンポケットならではの球で、これまでにわたしが目撃した数々のスーパーショットの中でもとりわけの絶品である。
上の図はエフレン・レイズVS江辺プロ。
左下がエフレンの穴、左上が江辺プロの穴でエフレンの撞き番。
この配置で左下にポケットできそうな球といえば、3番くらいか?
といっても、通常のコーナーバンクは物理的に不可能である。
さあどうする。
上の図が「マジシャン」エフレン・レイズのスーパーショット。
先球をワンクッションからコーナーのツノに当て見事に左下にねじ込んだ。
しかもNEXTも完璧である。
「ワンポケットというゲームをやらないか?」
エフレン・レイズが声をかけた時、場内にいた日本選手は全員キョトンとした。
だれもこのゲームを知らなかったのだ。
「よし。おれがやろう。」
ここで登場したのが江辺プロ。
江辺プロは一見優男だが、外見とは裏腹にひじょうに根性のある男でわたしが好きな選手のひとりだ。
だが彼もワンポケットはこの日が初体験だった。
村田蔵六(のちの大村益次郎)は、連合艦隊の砲撃によりぼろぼろに破壊された長州沿岸砲台を前にしてつぶやいたという。
「驟雨一過、万籟声ナシ」(シュウウイッカ、バンライコエナシ)
このショットの瞬間、場内は声なく、ただ深いため息に包まれた。
「う〜〜む。」
江辺プロは5秒くらいうなった後にひとりごとを言った。
「ひょっとしてオレ、ナメられてない?」
その時のかれの苦笑を、わたしははっきりと覚えている。
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