7/21(土)。
「根性S」はJPA目黒・品川地区の第5試合をむかえた。
対戦相手は前シーズン準優勝の「ひげなし」(ミスタースポーツマン中延)である。
なぜか今シーズンは調子の出ない「ひげなし」にトドメをさしておきたいところだ。
『この日のメンバー』
(1)BOSS
(2)じゃこ
(3)ジョニー
(4)はじめちゃん
(5)おっさん
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特集『はじめちゃん奮起する』
この日の注目を集めたのは「はじめちゃん」である。
今シーズンから「根性S」に入隊した新人で、21世紀のストロークの持ち主だ。そしてその球は芳醇な「フランスの香り」に包まれている。
なんといっても「前で撞く」ことを知っている上に向上心もある。「根性S」期待の新人なのだ。
「向上心」。
じつは「根性S」にもっとも不足しているのがこの「向上心」である。
すこしでも強くなろうという気があるのは、じゃことジョニーの二人だけで残りはポンコツばかりなのだ。
幼稚園のお遊技の時間と同じくらいやかましい「根性S」にあって、寡黙なはじめちゃんは異色の存在だ。
『特にやかましい3人』
BOSS・おっさん・かおるちゃん
いい球をキメた時のBOSSとおっさんは上野動物園のサルと同じくらい騒々しい。その横でフリ付きで歌っているのがかおるちゃんだ。
他のメンバーを尻目に、はじめちゃんはいつも静かに微笑んでいる。その微笑みは「モナリザのほほえみ」にはほど遠いが、しかし「裡に秘める男」はじめちゃんはその笑顔の奥で灼熱のマグマを煮えたぎらせているのだ。
はじめちゃんはかおるちゃんと同じころに入隊してきた。
そして初勝利を挙げるのははじめちゃんが先だろうと誰もが思っていた。
だが、
かおるちゃんが勝った!
はじめちゃんはうちひしがれた。
そしてその時から、かれの苦難の日々が始まったのである。
地獄のトレーニングが開始された。
朝はラジオ体操で始まる。しかも会場までは100メートル18秒のスピードで走っていくのだ。
ラジオ体操のときは両手に2キロのダンベルを持ち、足には鉄ゲタを履いている。
こうしてはじめちゃんは日本人初の
「熱血ラジオ体操」の指導者になった。
平日の仕事の間も工夫を凝らした。
腕には鉛入りのリストバンドを巻き、PCのキーも鋼鉄製に換えた。
外出するときは、腿を高く上げて歩くフォームを取り入れた。
休日には「大雪山の山ごもり」。
素手でクマと戦い、魚を獲り、高い木によじ登って木の実を食った。
こうしてはじめちゃんは「野性」を取り戻したのだ。
ビリヤード界のカール・ゴッチ
人ははじめちゃんをそう呼ぶに至った。
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はじめちゃんは燃えた。
はじめちゃんは「はじめ」というくらいなので常に1番打者なのだが、この日は迷子になって遅刻したため3番手で登場した。
はじめちゃんの紅蓮の炎は、対戦相手を業火の底に沈めた。
最後の球を入れた瞬間「やった〜! やった〜!」と喜ぶ「根性S」のメンバーにチラリと一瞥をくれながら、「フランス風ジェントルマン」をめざすかれは小さく叫んだのである。
ボンジュール!
試合は65ー35で圧勝した。
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