世の中で一番こわいものは? と聞かれて間髪をいれず「嫁さん!」と答えたのがけんちゃんである。
彼のビリヤードは好不調の波はあるが、球歴4年にしてはがんばっているほうだろう。研究熱心な一面もある。
だが如何せん練習時間に制限を加えられているのが痛い。
仕事が早めに終わると、彼は隠れるようにしてポケットにやってくる。そして1分1秒を惜しんで練習に没頭する。
しかし至福の時は短い。
8時になるとけんちゃんの携帯電話が鳴る。嫁さんからだ。その瞬間、彼の魂は球台から去り、彼の球撞きはサルも顔をそむけるほどに落ちぶれる。
妻を恐れるゆえか、愛するゆえか?
8時の電話を称してわれわれは「赤紙(招集令状)」と呼んでいる。
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