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勝負師の心得



鎌倉十番碁
(左:藤沢庫之助 右:呉清源)

 

囲碁の世界の話であります。

 

日本棋院の重鎮瀬越憲作が犬養木堂邸を訪れたのは、爽涼の気が外苑あたりに漂う昭和2年の秋のことだったそうです。
これに先立って、瀬越は北京に住む弱冠14才の天才少年を見い出しておりました。驚いたことにこの少年はわずか12才にして中国四百余州に敵がいなかったといわれる。
不世出の大天才呉清源(ごせいげん)でありま
す。

 

「このたび支那で棋道の天才少年を見つけました。それは呉清源といって棋聖秀策の少年時代に似たような天紊の才を持っています。」

「なるほど、それは耳寄りじゃな。」


呉清源に対して「日本に来い。」と言っても親が許すまい。そこで瀬越は犬養に呉清源日本招聘を頼みに行ったのです。


「それはたやすいことじゃが、連れてきてものになるのか。」

「ものになるどころじゃありません。このまますくすくと伸びていけば、どこまで行くものか見当もつかない。世の中に天才少年というのはいくらもありますが、こんなのはちょっと類がありません。」

「よし、それはよくわかった。そこでじゃな。もしその少年がすくすく育ったら、結局将来は君らがやられる時代がくるんじゃないか。日本の囲碁が中国の少年に抑えられたとあってはどんなものかな。君らはどう思う。」

「芸道に国境なし。世界のどの国の人が名人になっても、私らは歓迎したいと思っています。」

「ええ覚悟じゃ。技芸に携る者は常にその精神を持っとらにゃいかん。それでこそ、芸の道は発展するのじゃ。」


こう言って木堂は完爾としたという。

 

呉清源は来日後期待にこたえます。
並みいる強敵を倒した後に実現した「鎌倉十番碁」では当時国内最強といわれた藤沢庫之助を破り、その後木谷実とともに「新布石法」を発表。時事新報棋戦18連勝など数々の大記録を打ち立て「呉清源時代」をつくったのです。

 

自分が育てた弟子に自分が討ち取られるのですから、普通に考えれば瀬越師はまったくもって間尺に合わないことをやっているわけですが、「囲碁に殉ずる」という精神をもって呉清源を育てあげたのです。
これこそが「勝負師の心得」であります。

 

 




 

さてビリヤードです。
「勝負師」を「プロ」に置き換えてみましょう。
日本には男女あわせて数百名のプロ選手がおられるそうですが、そもそも「プロ」とは何であるか、ということであります。
「強いのがプロ」というのが本来一番明快な答のはずですが、実際にはプロテストに合格できそうなアマチュアは大勢おられますし、わたしの知人に14ー1のアベレージ13点台の方もおられますがこれもアマチュアです。
こうなってきますと「強いのがプロ」と言ってはみたもののどうも座り心地が悪い。

 

中学時代わたしは「大リーグVS日本選抜」の野球の試合を観たことがあります。
オリオールズのエース投手クアイアールは「七色の変化球」と呼ばれる多彩な球種が武器の技巧派投手でしたが、テレビではただの「ヘナチョコ球」にしか見えない。
ところがこの「ヘナチョコ球」に対し日本選抜は16三振をくらって惨敗。
わたしは悔しくて涙を流して叫んでおりました。

 

 

「このバカタレが〜! プロをやめろ〜!」

 

35年前の大リーグと日本野球とではたいへんな差があったのですが、そんなのは知ったことではない。
「同じプロだろ?」というわけです。

 

これがアマチュアの試合でしたらまったく違います。

「パワーがちがうよな。ま、食い物がちがうんだから仕方ないよ。お茶漬けとステーキじゃ勝負にならんよ。」
「やっぱり本場はちがうね。日本にもがんばってほしいね。」
「でも日本の先発投手もけっこうよかったよ。プロに行けるかもしれないね。」

わたしだって「バカタレが〜!」とは叫びません。叫ぶにしても「がんばれ〜!」と叫んだと思うのです。

 

このあたりがプロのつらいところでしょう。

 

第一プロになってもロクなことはありませんよ。

●どんな強豪と対戦するにしても、まさかハンデをもらうわけにもいかない。

●「アマチュア強豪」といわれ尊敬されていたのが、ヘタをすると翌日には「芋プロ」と呼ばれてバカにされている。

●なにかにつけて「プロのくせに、プロのくせに」って・・うるせえな。

●オレ・・なんで金払ってまでプロやってるんだろう・・普通プロって金もらえるんじゃないの? イチローなんかいくらもらってると思ってんだ!

●試合にエントリーしたら、なぜかエントリーフィーが高くなっていた。ま、勝てばいいんですけどね・・そんな簡単に勝てねえよっ! だ、だって・・

 

 

 

 

相手はプロなんだぞっ!

 

 

 

あんまり書くと吊るし上げられるので、そろそろわたしの考えを申します。

 


 

 

プロというのは「十字架」を背負うことであります。

 

 

もちろん強くなくては話になりませんが、それよりも以前に万難を承知の上でまっしぐらに突き進む覚悟があるのかどうか、そのことが大問題です。これは単なる精神論ではなく、現時点でいくら強くてもその覚悟がないのであればプロになるべきではありません。
第一アマチュアのままでいる方が気楽ですよ。
ハウス荒らしや賭け球で小遣い稼ぎもできますし、フィリピン選手が来たら便所に隠れていればいい。
それはビリヤードの世界に限ったことではありません。
どんな世界で生きている人もみんなそれぞれの稼業に対して「十字架」を背負っておられるのです。まして勝負の世界であれば尚更のことでしょう。

 

ちょくちょく行く球屋にアマチュアの若手選手がおります。
かれはその店で働いているのですが、それ以外にコンビニでアルバイトをしている。
球屋の給料で最低限の生活はできるそうですが、たまに来るフィリピン選手と勝負したい。
フィリピン選手とは9先5000円で対戦するそうですが、そう簡単には勝たせてくれないのでこの5000円がしんどい。
それを捻出するためにコンビニで働いているわけです。
生活のすべてをビリヤードを中心に組み立てているのですが、わたしはこういう若者がたまらなく好きです。

 

こういう若者がいる限り、日本ビリヤードもまだまだ捨てたものではない。

 

いえいえ、若者だけではありませんよ。
わたしの友人に片岡久直(JPBA)というのがおります。
この男は1980〜90年にかけて一世を風靡した男ですが、その後他団体に移籍し元の団体にもどるためにテストを受けた。
55才でした。
当然のことながら、自分が育てた弟子よりも後輩になってしまうわけです。それでもプロ1年生としてプロテストを受けた。その情熱に対し、わたしは頭を下げるしかない。

 

若手とベテランの組んずほぐれつの戦いをファンは大いに期待しておりますし、片岡久直には「あと5人」のプロ選手を輩出してほしいものだと心から願っております。
それこそが「芸の道に殉ずる」ということだと思います。

 


 
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