サイトトップサイトトップサイトトップ
corner
マップ
サイトトップ
サイトトップ
選手
用語集
用語集
掲示板
リンク
 
サイトへの
お問い合わせ

left_down_right
left_down
アスリート列伝 (杉山直樹編2)

 

夏の大会が終わるとまもなく春の選抜大会の予選がはじまる。
東海地区の代表は愛知、岐阜、三重、静岡の4県で争われる。
1年の夏が終わるころ杉山は正捕手、4番打者に抜擢されている。投手は左の本格派出口である。
このチームはなかなか強かったらしく練習試合でもほとんど負けなかった。
静岡県予選を3位で通過した沼津学園は準々決勝で愛知東邦との対戦を迎えた。強敵だがこれを倒せば甲子園への切符を手中にできる。まさに大一番である。
この試合で杉山は3打点と好調だったが、最後の最後に大失敗をやらかしてしまう。
同点でむかえた9回裏、東邦の攻撃2死1、3塁の場面で「当たっている9番打者は歩かせて次の1番打者で勝負しろ。」とのベンチの指示だったのだが、途中交代の9番打者と1番打者とを勘違いしてしまい打たれて負けた。
「東邦は洗練されていた。伝統に負けた気がする。しかし、あわよくば勝てる試合をして選手たちは自信をつけた。やり直したい。」
川口監督は試合後のインタビューで淡々と語ったが無論これはタテマエで内心は相当ショックが大きかったらしく、その証拠に「おまえの勘違いで甲子園に行けなかった。」と杉山は今でも愚痴られるという。

 

しかし沼津学園がいいところまでいったのはこの大会くらいで、あとはさっぱりだった。
2年の夏は杉山賢人(のちに西武)を擁して必勝を期したが、静岡商戦で9回裏にサヨナラホームランを喫して敗退。相手側スタンドの「キャー」という大声援だけが奇妙に杉山の記憶に残った。
3年の夏は一回戦で竹下投手(のちに西武)の静岡市立商に封じこまれた。
3年の春にいたってはどこと対戦したのかすら覚えていない。
地獄の猛練習に黙々と耐えながらも沼津学園は甲子園には縁がなかった。


 

高校生活も終わろうとしていた。
1年の夏から3年の夏までの2年間で杉山は約120試合に出場し盗塁阻止率7割強、富士球場では場外に叩き出す130メートル弾を放ったりしている。
3年の夏ごろになってバックネット裏に読売巨人軍の河埜スカウトの姿を見かけるようになった。選手たちはざわめいたが、河埜スカウトが現役時代に遊撃手だったこともあり、狙っているのは遊撃手の有田だろうと誰もが思っていた。
「そのころになってもプロ野球は別世界だと思っていました。まるで実感がなかったのです。河埜スカウトも有田を見に来られているのだと思っていましたし、実際有田は天才的に上手かった。」
しかし、河埜スカウトの真意を知る者が一人いた。
監督の川口である。
川口は、河埜スカウトの視線の先にいるのが有田ではなく杉山であることを知っていた。
「打撃は思い切りいいし、肩もつよい。何よりも捕手に大事なリーダーシップを持ってるよ。」(河埜スカウト談)
川口は将来杉山を自分の後継者にしようと考えていた。プロに行かれては困る。規定によりプロ野球経験者は高校野球の指導者にはなれないので、プロ球団からの打診は黙殺し杉山に対しては母校明治大学への進学を勧めていた。
ところが、関西の某プロ球団が杉山宅に直接連絡したことからすべてが発覚し、この時はじめて杉山は「プロの世界」を意識したらしい。かれの気持ちは急速にプロ野球へと傾いていった。
1987年のプロ野球ドラフト会議で杉山は東京読売巨人軍から6位で指名され入団した。
かれの胸は膨らんだ。


 



プロ野球の世界は願ってかなえられるような生半可な世界ではない。
杉山直樹は高校時代川口式スパルタ練習に耐え抜いただけでなく、帰宅後もティーバッティングを欠かさなかったという。その努力は認めよう。しかし、それだけでプロに行けるものなのか疑問が残る。同じように過酷な鍛錬を積みながらプロから声が掛からなかった選手が大勢いるからだ。
本人は怒るかもしれないが、わたしは杉山直樹という選手がそれほど才能に恵まれた選手だったとは思っていない。

かれの父正明が町内のソフトボールチームに所属し母時子がママさんバレーに通っていたことから察するとスポーツ好きな家庭だったことは疑いないが、しかし両親が特別にすぐれたアスリートだったわけではない。
強いて他の家庭とくらべてちがった点といえば、正明が100キロの巨漢だったことくらいだろうか。ところが4歳上の姉ゆかも、のちにバレーボールの特待生として高校進学をはたしているのだ。
その差はどこにあるのか。
そのあたりの秘密を解き明かすためには、かれの少年時代にさかのぼるしかあるまい。わたしの興味もじつはその一点にあるのだ。

    

(つづく)

 

 

Copyright(C),Billiard Pocket. All right reserved.

inserted by FC2 system