犬の嗅覚というのは大したもので、一説によると人間の300倍優秀だそうであります。
わが家には2匹のミニチュアダックスがおります。
一応紹介しておきます。
8才の方は本名「ヒメ」ですが、赤塚不二男氏の「ウナギイヌ」に似ているので「うな」とも呼ばれている。
年間を通じてポ〜としていて、喧嘩に勝ったことがありません。
2才の方は本名「モモ」ですが、通常「モミー」と呼んでいる。
こちらのほうは唯我独尊、ヤクザみたいな犬であります。
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ある日の昼下がり、わたしは突然「屁」をこきたくなりました。
そしてその時、ひらめいたのであります。
「この屁を、犬の鼻にむかって噴射したらどうなるのだろう?」
それはまさに「神の啓示」でした。
なんといっても「人間の300倍」の鼻であります。
屁×1でもクラッとなるときがあるのですから、
屁×300となると、これはもう殺人兵器であります。
実際わたしは満員電車のなかでエグイ屁を嗅いだとき、一瞬「殺意」が芽生えたことだってあるのです。
まともに屁の衝撃をくらったら犬はどうなるのだろう?
倒れるのか?
自律神経がイカレるのか?
その瞬間、鼻がクニッと横に曲ったらわたしはシアワセだ。
蟹みたいに横に歩き出したら、もっとシアワセだ。
わたしは妄想に胸をふくらませたのであります。
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わたしは「おやつ」を与えるフリをしてヒメをおびき寄せました。
「ヒメちゃ〜ん♪ おやつですよ〜♪ おいでおいで♪」
悪魔のささやきであります。
そもそもわが家には、天寿をまっとうした犬がいない。
みんな畑の農薬を食ってサヨナラでした 。
悲劇を繰り返してはいかん!
食い物に釣られることがどれほど危険であるか、飼い主のわたしとしてはそのことを犬に教えねばならん。
ああ、なんという深い愛でしょう!
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ヒメは「おやつ」に釣られた。
わたしは自分の尻にヒメの鼻を押し付けたのであります。
プッ。
そして、
ヒメはびくともしませんでした。
それどころか、何事もなかったかのような表情で
「早くおやつちょうだい。」
わたしを仰ぎ見たのであります。
ありゃりゃ?
おかしいな。
さては「耐える女ヒメ」。
屁の直撃に耐えてけなげに「おやつ」を要求しているのかも知れない。ああ、なんといういじらしい犬なのでしょう。
ひきつづき「モミー」をおびき寄せた。
こいつは断じて「耐える犬」ではない。
なんといっても「ヤクザ犬」であります。
わたしは気合を入れました。
バフッ!
どうなってるんだ?
モミーもびくともしないではないか。
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こうしてわたしの実験は失敗に終わりました。
犬がなぜ倒れなかったのか原因は不明でありますが、ヒメが一瞬ウットリした表情をみせたことから察しますと、わたしの屁は犬にとって「シャネルNO.15」のような香りだったのかも知れません。
それとも、
「このおっさん、どうせロクなことをしないだろう。」
と考えて、息を止めていたのかも知れない。
まあ、アレですな。
人間というのは忙し過ぎてもダメですが、ヒマ過ぎてもロクなことを考えない。
そういうお話でした。
(註:良い子のみなさんはマネをしないでください)
とろとろと平和な春の夕暮れ、であります。
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